助太刀いたす！
前回、職人には職人として生きることに覚悟を決めているプロ職人と中途半端に嫌々仕事をするダメ職人がいるという話をしました。ほんで、お客が職人を選べないことは問題だよねという話もしました。
これ、戸建ての建売物件やマンションのリノベーション物件の場合、完成後に買い手が決まることが多いので、職人を選ぶなんてまず無理です。一応、最近は中国の販売方式に倣って、マンションはスケルトンの状態で売るという流れも出てきてるらしい。
だけど、戸建ての建売もマンションの再販リノベ物件も、売主は工期短縮コスト削減が命、どんな職人が入ろうがとっとと作り上げて販売にかけたいと思ってます。
こういった現場は工期厳守なのでスピード勝負。戸建ての場合手練れの職人が8時前から現場入りして、夜は20時くらいまで叩いてなんとか終わらせます。一方マンションの場合、集合住宅なので他の住民への配慮から、朝は9時スタートで夕方17時には作業終了が基本です。
場合によっては”土曜日は音出し禁止”といって、事実上作業不可能だったり、朝は9時にならないと建物に入れない、17時には完全撤収なんてこともある。だもんで、終わらないんです。工期以内に。
そこで執られるのが人海戦術です。とにかく大工を投入してなんとか終わらせようとする。そんな現場に僕もよく呼ばれるのですが、この前も助太刀に行ってきました。もちろん他人の現場のケツ拭きなので仕方なく。
「元々入ってた大工さんが体調を崩して入院しちゃったんです。で、木完（木工事完了のこと）は水曜なのであと三日しかありません」
「まじかよ～。あと三日じゃ絶対終わらないでしょ。やれるとこまででいいの？ 俺は今日明日しか来れないよ」
「大丈夫です。モジゃさんの他にあと二人大工が入るので協力してやってください」
ってな感じで、僕以外にも大工が入ることや事の成り行きは当日聞かされることもザラ。んで、9時に現場に入ってみると知らない大工二人がもう叩いていたのですが。
僕「おはようございま～す。よろしくおねがいしま～す」
二人「あ、おはようございます」
二人は兄弟で仕事している大工で、今回この現場に来た経緯は職人求人アプリを利用して見つけたということでした。ふ～ん。あのアプリね。
このアプリは簡単に言うと、仕事がない職人と職人を探してる業者をマッチングさせるアプリです。評判悪いです。その理由は・・・。
二人にお近づきのしるしとして、コンビニで買ったコーヒーを渡すとこれまでの苦労話を話してくれたんです。
なんでも兄弟は父親の死後、二人で工務店を継ぎ、神奈川西部に拠点を構えて様々なリフォーム屋の下で工事を一括で請け負い、マンションを中心に叩いてきたとのことでした。
ところが一昨年、同時に二つの元請け業者が工事代金を支払ってくれないという事態が発生、その金額は300万を超え、一括で請けていたことから協力業者への支払いのために文無しに。預金もない、家もない、トラックもない、そんなところから再スタートしたばかりだと言うんです。
まじか～、重い、重いよ～。と思いながらも僕は二人を励まして、いよいよ作業を開始。職人は叩いてる限り喰いっぱぐれることはないさ！
ん？ ん？ え？ え？ なに？ なに？
作業を始めて、僕は10分もしない内に気づいてしまった。二人が、僕のやることを見ながら作業をしていることに・・・。
「あれ、マンションのリノベやってたんじゃないんですか？」
「やってましたよ。やってました」
「じゃあ、大丈夫ですよね？」
「大丈夫です」
ところが、この二人。仕事に関して全く知識が及んでおらず、危なっかしいったらありゃしない。多くの大工がAをとる作業をBにしたりCでやってみたり。おまけに常に二人で作業してるから遅いったらありゃしない。
「手分けした方がよくないですか？ 弟さんはあっち、お兄さんは向こうで」
「ああ、そうですね」
と言いつつ、ちょいちょい僕のやることをチェックしながら、二人で作業。しかもセオリーとは違う、妙な施工をする二人・・・。
同時に二つの元請け業者が工事代金を支払ってくれないという事態が発生か・・・。お察しです。お察し案件です。
これじゃちっとも助太刀になってないよ。
だけどこの二人の人柄は柔和で悪気はなさそう。僕は小学校の頃、目立たないグループにいた良いやつだけど親友にはならなかった子達のことを思い出しました。
この二人はプロ職人ではないのは確実。じゃあダメ職人なのか否か。
もっちろんダメ職人です。ダメダメだよ！ 無知の知が必要だよ！
あ、見た目がゴブリンとコボルドにそっくりだったことを書き忘れた！！
