ところ変わればサイヤ人
大工として独立して五年目ですが、最初は不安だったことがあります。
それは他の大工さんと一緒に仕事をすること。そうなんです。僕は自他共に認める大八なので、腕に自信がない。
でも、他の工務店にヘルプで呼ばれたり、仕事が空いてしまったときなどに助けを求めたり、持ちつ持たれつの関係で職人は仕事をしてるから、避けられないのよね。
さあさあ、いざ他の工務店へ厄介になりに行きますと、本物の大工さんがゴロゴロいらっしゃるわけです。こうなると僕は新米大工に逆戻り。自分の経験年数なんて忘れて小僧に徹するしかないでしょ。
「ちょっと、これ切っといて」
「はいっ!」
「この材、あっちへ運んでおいて」
「はいっ!」
とまあ、ヘルプで呼ばれているとしても、お世話になる身であることは間違いないので、精一杯走ることでなんとか大八であることをカバーしています。う~ん、我ながら消極的な対応策で微妙。男として微妙。
ところが、たまにこの状況が180度違うことがあるのだ。先日も作業工程が遅れている大工の現場にヘルプで呼ばれたときのこと。
都内某所のマンションにてリノベーション工事。僕が呼ばれた現場では差し迫った工期に間に合わせるために二人の大工が所狭しと叩いてました。年齢はお二人とも50代後半くらいの先輩。
あああ、いやだなあ。今日も小僧に徹して手元をやるしかないか、などと思っていたら、お二人とは違う場所の作業を一人で進めてくれとのこと。お! それは有り難い。だって気を遣わずに自分のペースで叩けるからね。るんるんる~ん♪
と、作業を始めてお昼になる頃。「お昼にしましょう」と僕に声を掛けに来てくれた大工のお二人。なんとはなしに僕が作業していた場所を見て。
「え! もうこんなに進んだの?」
「はやいね~。しかも丁寧じゃん」
いや~、それほどでも~。こいつは思わぬサプライズ。普段仕事を褒められることなんて皆無なので嬉しいったらありゃしない。
かようにして大工は、その工務店や、チームや、個々によって、仕事のペースにかなり違いがあります。そして、仕事の手順や施工の納め方も、正解があるようでないので人それぞれだったりします。最短と時短を主張し合う道路の俺ルートによく似てる。
だもんで、大八な僕は他の工務店へ出向すると、大抵は新米扱いなのですが、ところ変わればめちゃくちゃデキる大工として見てもらえるときもあるんです。稀だけど。
こうなると、天狗。もうなんかサイヤ人とかスーパーマンを見るような目で褒めてくれるから鼻がのびるのびる。うっひゃっひゃ。そうかねそうかね。かっかっかっか。
それでも他の大工と一緒に仕事をするのは気疲れするけどね。まあ仕方なし。