大工、ご在宅で材料が来ない!
何もできない。
ただやることもなくぼーっと壁に掛けられた時計を見る。しかも初対面でよく知らない人の家の居間で。
こんな飲みすぎた夜に見る夢のような状況が大工には訪れます。お客様在宅の現場で工事当日に届くはずだった材料が道路状況や発注ミスの影響で来ないときです。
朝イチで届くと聞いていたのに、10時、11時を過ぎても届かない。もう気まずいったらありゃしないよ。お客は今日の日のために休みをとって家にいてくれたり、買い物やお出かけはもちろん、家事もそこそこにガマンしていたりするわけですから。
「全然材料来ないじゃん」と現場管理に聞いてみても「おかしいっすね。確認したらやっぱり朝イチになってるんすけどね」って、おいおい。こんなとき、優しいお施主さんはむしろ我々職人や管理の人間を気遣ってお茶を出してくれたり、お菓子をくれたり・・・超もうしわけないよ。
材料がなくて、やることがない大工なんてただのおっさんですからね。しかも薄汚れたシミだらけの作業着で、ただのおっさんどころか小汚いおっさんだよ! 小汚いおっさんが居間にぬぼ~っと立っていたら誰だっていい気持ちしないはず。
じゃあ車で待機してなさいよ→駐車場が遠くてめんどくさい。
じゃあ外で待機してなさいよ→真冬で超寒い。
じゃあ面白トークで場をつなぎなさいよ→イエッサー!
というわけで、こんなとき僕はさりげなく部屋のインテリアなどを一瞥して話のとっかかりになる素敵アイテムを探します。
「あ、このダイニングテーブルって伸びるやつですよね? お客さんが来た時とかに使ったりするんですよね~」
「え? 違います」
・・・。
「あ、白い恋人だ! これ美味しいですよね。北海道行かれたんですか?」
「いえ、頂き物です」
・・・・・・。
作戦は失敗しました。これより自分は寒空の下、ひたすら黙ってスマホを眺める作戦に切り替え、材料が届くまで待機いたします。
オーバー。