大工、利用してやる
父が嫌いで大工になるのだけはイヤだと考えていた十代の後半、様々なバイトを転々と変え続けながら、人生なんてツマラナイものだとふさぎ込んでいました。
17歳の時に家から近いという理由だけで決めた肉屋のバイト。そこで頂いた給料でギターを買ってから、音楽で喰えるようになりたいと、憧れを越えた確信のようなものを持つようになっちゃったんです。
学校の授業ではリコーダーもピアニカも絶・苦手だったのにね。
だけど、本気でバンド活動をしようと思うと、作曲にライブに練習にと、時間もお金もかなり持っていかれるので結構大変。とてもじゃないけどフルタイムで週に六日なんて働く暇はないんです。
すると僕の中で心境にとある変化が。
絶対になりたくない大工だけど、僕を絶対に大工にさせたいと思ってる父だから、休みとかよそで働くよりも融通利くんじゃないか？
こんな風に考えるように。つまり、実家が工務店であることを利用して、自分の夢を追いかけようと思ったんです。かじれるスネがあるのなら、かじりまくってやろうと。
そう考えると、大工の現場に出るのもそこまで嫌じゃなくなったのよね。五つ年上の兄も一足先に大工の仕事を始めていたので、入門しやすかったこともあった。
この頃、父と出向く在宅リフォームの現場とかで「あら、息子さん？ お父さん安心ね～。立派な後継ぎがいて～」なんてことを幾度聞いたかわからないけど、内心いつも「それはない、絶対にない」と思ってた。
初めから本腰入れて大工になろうと努力していたら、和室も作れて、階段もつくれるホンモノの大工になれたのだろうけど、こんなスタートだったので未だに大八なのだ。
本気でやっていた音楽では喰えなかったけど、ずーっと中途半端な大工で喰えてる事実。世の中甘いんだか厳しいんだか。
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