大工、足場屋で働く.1 クマちゃん編
うつ病になって薬を飲んでいたとしても、働かないと喰えない。当時、リーマンショックの影響で新築の仕事が激減し、実家の工務店は仕事の仕方を変えざるを得ない状況に陥っていました。
そんな中、父と兄を残し、弟の僕は口減らしのために父が懇意にしていた足場屋に出向することになったんです。が、この足場屋がトンデモ会社だったのよ。
社長+従業員3名の小さな会社なのですが、この4人の破壊力たるや・・・。長くなりそうなので各編小分けにしていきたいと思います。
先ずは従業員のクマちゃん。当時40代後半。社長を含めた他の従業員2名はアパートの一室で共同生活をしていたのですが、このクマちゃんだけは別のアパートに一人で住み、そのアパートの生活費は会社が出していました。
クマちゃんはビールと柿の種が好物で、少しシャイな長男的存在。帰りのトラックでは毎日かかさず呑んでパリポリ、呑んでパリポリ。でね、クマちゃんは自称糖尿病なんです。
なぜ自称か。それは僕が信用していなかったから。
仕事中、みんなで重たい足場の材料を運んでいるときなどに、クマちゃんは唐突にしゃがみ込んで「ダメだ、糖尿でめまいがする」とか「ちょっとまって、目が見えなくなった」などと言って、休んじゃうんです。
え? なにそれ・・・。
ってなるのよ。こっちは肩や腰にズシンとくる重たい足場をバンバン運ばないとアカンのに、一人抜けるとその分の負担がのしかかってくるじゃない。しかもその症状の出るタイミングがいつも絶妙で、大変な時に限って発症。
他の従業員も含めて、僕もクマちゃんの糖尿病なんて信用していなかったんです。
ある日のこと、仕事を終えた僕と社長とクマちゃんの三人、仲良くトラックに揺られる帰り道。いつも通りコンビニでビールと柿の種を買って、呑んでパリポリするクマちゃん。
クマちゃんは頬を赤らめて上機嫌だったのですが、突然の大声!
「ぬあああああっ!!」
「え? ど、どうしたんですか?」
「なんだよお! なんかヌルヌルすると思ったんだよ!」
え? なに? なんなの? ヌルヌル?
クマちゃんは自分の足元を見ながら、「まいったな~」を連発。
おそるおそる僕もクマちゃんの足元をのぞき込みました。
「うわぁあっ! マジっすかああ!?」
なんと、クマちゃんの右足の甲を突き抜けて、釘が真上に飛びだしていたんです。
「え? 今の今まで気づかなかったんですか・・・?」
「糖尿だから感覚がないんだよ。まいったな」
ま、マジ糖尿だったんかい・・・。
と、この後、普通なら病院に直行かと思うのですが、トラックは普通に作業場に戻り、足場のパイプを車から降ろし、全くもっていつも通りに解散でした。
クマちゃんはその後、2週間も姿を見せず、久しぶりに出勤した日は「アパートの電気が止まったから社長に言いに来た」という、斜め上の理由だったのです。
クマちゃん、今思えば糖尿でも末期だったんじゃないかな。きちんと病院に行ってるといいけど・・・。時を越えて人を心配にさせるクマちゃんに幸あれ。
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