大工、そしてスーツを着る
産廃屋に就職して三ヵ月を過ぎる頃、会社に直談判した成果が実って、ついにその日が来ました。
「○○は明日から、営業な」
工場を訪れた本部長に肩を叩かれたんです。これはうれしかったよ~。即座に「スーツですか?」って聞いてもうたからね。そしたら「でもいいよ」っていう曖昧な返事だったけど。
こうして僕の産廃仕分け作業員時代は三ヵ月の試用期間で終了となり、晴れて事業本部の営業職にジョインすることと相成ったわけです。
職人の子として生まれて、職人二世として育ち、まるで職人以外は認めない父の下で職人二世として作業着を着続けた僕が、単身外の世界でスーツを着る職に就いた。
スーツなんて世間様は当たり前だよって腕を組むかもしれないが、あたしゃほんと~~にスーツが感慨深かったのだよ。まあ、一度はそのスーツも避けて美容師になろうとしちゃったんだけど。
こうして僕は31歳にして、初めて仕事でスーツを着ました。一人で笑っちゃうくらい嬉しかったです。
次の日の朝、スーツを着て、しっかりネクタイまで締めちゃって本部に行ってみると・・・
「おはよう」「お、来たな」「よろしく」「君が○○くんか」
「あ、おはようございます。今日からよろしくお願いします!」
・・・・・・。
って、ワシ以外全員作業着やんけ〜~〜!!
そうなんです。事業本部で働く営業部の先輩方も、経理も、配車係も、事務職のお姉さん(私服)二人を除いて全員作業着だったんです。
がび~~ん。俺めっちゃ浮いてるじゃん。一人だけウキウキじゃん。するとそこへ本部長や役員が「おはよう」と右手を軽く上げて入ってきて私確認しました。
この会社は役員のみがスーツだったんです・・・。
ボク、カナリキマズイ。ところが若い本部長は事務所内で働くみんなにもスーツを着てほしいと思っていたらしく、僕だけはそのままスーツで仕事をしてほしいとの御達し。
どうやら、作業着もスーツも会社は強制していないらしく、先輩方は作業着の方がラクだし、建設現場などに行く際にはスーツだと汚れるという理由らしい。なるほどね。
というわけで、事務所内では本部長と専務と僕だけがスーツという日々が始まったのですが・・・「おぼっちゃん」「世間知らずくん」「犬」などと、僕は呼ばれてしまうことになるのでした。
「犬」って・・・。
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