任意保険に入っていない僕がオカマ掘りました
「事件ですか? 事故ですか?」
「事故です」
事故だよ事故だよ! 紛れもなく事故だよ! けが人の有無と事故の発生場所を聞かれて、あたふたと説明すると、すぐに向かうので待っていて下さいとのこと。
高速道路脇に車を停めて、落ち込んだ様子の人がしゃがみ込んで頭を抱えている。二台の車はべこべこに凹んでいて、携帯を持った人はどこかに電話をかけている。物見遊山の車が少しスピードを下げて事態を眺めながら通り過ぎる。
まさか自分がこうした事故現場の当事者になる日が来ようとは。次は癌になって、まさか自分がって言うのかしら・・・嫌だなあ。
しかし、この状況にも関わらず、なるほどな~と思ったのが、クラクションを鳴らしながら通り抜ける車が結構いたことです。物凄い目つきで睨みながらだったり、何か小言を呟きながらクラクションを鳴らす人達。警察が来るまでに五台もいました。その内一台は窓を開けてなにやら叫んでた。だけど聞こえないのよ。トンネルの中うるさくて。
幸い、相手方の男性はとても温厚な方だったんです。仮に田中さんとさせて下さい。田中さんと僕は警察が来るまでに連絡先の交換をしました。僕は自分が大工であることを伝え、田中さんは会社員であることを話してくれました。
僕が任意保険に入っていないことを伝えると田中さんは即座に「大丈夫?」と言い、僕は「わからないです。本当にすいません」と。本当にどうなるのか何もわからなかったんです。
田中さんに保険会社へ連絡するように促すと、もぞもぞと車の中から保険会社のハガキを取り出して、何故かうるさい車外で田中さんは電話をかけていました。話しづらかろうて。
保険か・・・ん? そうだ! 車ってこういう時のために誰しも自賠責保険に入るんじゃないのか! そう思った僕は自賠責保険の証書を取り出して見てみました。
ところが「人身事故の対応に限ります」との文言が・・・ガーーーーン。
終わった・・・本当にそう思ったよ。冷静でいられなくなるようなドキドキが込み上げてきて、神にも祈るような気持ちになりました。と同時に田中さんに怪我がなくて本当に良かったと思いました。
その後、警察が来るまで田中さんと僕は互いに体調の確認をしたり、職場への対応をしたり、事故状況の確認をしたり、お互いの車の状態を確認したりしながら間をつなぎました。この間、ずっと僕と田中さんは声のボリュームでかめ&耳打ち気味の不思議な関係。
車の中で待ちましょう、と何度言っても田中さんは車外から動かなかったのだ・・・謎。
そうこうしていると、ついにサイレンの音が近づいてきました。
パート3へ続きます。